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金閣寺東の町家(1)

2024.01.19

金閣寺のほど近く、元・西陣織職人の住まいを改修することになりました。
築95年が経ちますが、建築当時の姿が状態良く残る小さな町家です。


町家といえば表の格子が印象的ですが、繊維業の店構えにつくものは特に糸屋格子と呼ばれ、糸や織物の色を見るのに光が入りやすいよう細い木材でつくられました。上部が切り取られた短い棒を切子といい、これが4本なら織屋、3本なら糸屋、2本なら呉服屋というように切子の本数で業種もわかるようになっています。この家は元・呉服屋ということになります。

玄関から裏庭まで土間(通り庭)が続きます。町家によく見られる構成ですが、その土間が奥で深く掘り下げられるのが西陣町家の特徴です。「埋め機(うめはた)」と呼ばれる織機を掘り下げた土間に据えることで、絹糸にとって重要な一定の湿度と温度を保っていたそうです。

台所の上の吹抜は火袋といい、 炊事の煙や熱気を逃すとともに火災の延焼を防ぐ(火を閉じ込める=火袋)役割があります。

荒々しいゴロンボ(丸太状の梁)に支えられた2階の大屋根には、トントン葺きと呼ばれる細かい杉板が露わになっています。トントン葺きは瓦屋根を支えるための下地で本来は仕上材ではありませんが、それゆえの無骨で滋味深い表情をつくっています。延べ20坪ほどの小ぶりな家ですが、大屋根や火袋の効果で実際の面積以上に広く大きく感じられます。

建て主は東京に勤務していますが、リモートワーク導入を機にこの町家への移住を決めました。
町家は住まいの場でありながら、同時に商いの場でもありました。織物職人の町・西陣もそんな「職住一体」の町家とともに発展してきた歴史があります。
近代化により職場は都心のオフィスに代わり町家も減りましたが、リモートワークの普及や働き方の変化によって、職住一体の暮らしが形を変え現代に復活しつつあります。



そのような暮らしがもっと広まれば、やがて昔の町家や商店街のように、仕事をする空間と住空間とが混ざりあう生き生きとした町並みがよみがえるかもしれません。
この改修によって町家の姿かたちだけでなく、西陣らしい職住一体の豊かな生活文化を、現代的な暮らしの中に引き継げればと思います。