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金閣寺東の町家(2)

2024.01.24

既存建物を実測します。残存する図面と実際の寸法や形状を照らし合わせます。手摺格子や建具も細かく採寸していきます。


実測には3Dスキャンも併用しました。手で測るのは大変な屋根や複雑な梁の形状も、今やiPhone1台で(!)手軽に3D化できるようになりました。

実測結果を図面に起こします。このような詳細の断面図を、建築用語で矩計図(かなばかりず)といいます。単に形状を示すだけでなく、各部の納まり、寸法、材料といった「建物がどうつくられているか」をあらわす図面です。


図面がまとまったら解体調査に入ります。写真では床の一部を取り壊しています。
古い建物の場合、床下に思わぬ障害物が埋まっていて工事の支障になることがあるため、その下調べをするのが目的です。同時に基礎のつくりや傷み具合も確認できます。


外周部に断熱を施すため、不要な土壁も一度落とします。だんだんと建物の骨組みがあらわになってきました。
工事は町家改修のスペシャリストである(株)アーキスタイルさんにお願いしています。
町家に大変な知識と愛着を持っておられ、設計段階においても多くの助言をいただきました。


 調査が終わり、いよいよ設計に入ります。
・集中できる仕事場
・余計なモノのないシンプルな住空間
・町家らしい雰囲気をできるだけ残したい
が建て主の希望です。

あらためて、この町家のつくりを整理してみます。
室内は大きく3つの空間から成り立っています。
 

①ミセノマ(1階・かつての商空間)
土壁、下地窓、古い建具など、建築当時のしつらえが残ります。安定した北からの光が入る落ち着いた空間なので、ここを仕事場にしようと思います。町家の意匠だけでなく、商いの場としての役割も引き継ぐことになります。
 

②土間(1階・かつての織物工房)
全体的に傷みが激しく窓も朽ちています。後から作った物置(写真左)がスペースを圧迫しているのも気になります。しかし一方で機織りのための高い天井、南の庭に面する日当たりの良さなど、高いポテンシャルをもった空間といえます。
西陣ならではの町家の形「織屋建」の骨格は残しながら、表面は思い切って現代的にリノベーションし、居心地の良いリビングにしたいと思います。かつてのダイドコ(=台所。写真右)も新しいキッチンに作りかえます。


③座敷(2階・かつての住空間)
壁の傷みや若干の床の傾きがみられますが、ゴロンボ、床の間、手摺格子など、職人の家らしい素朴でてらいのないしつらえがしっかり残っています。この味わいを残しつつ、2階も以前と同じ住空間(寝室)にします。

建て主と設計者で色々と物件を見てまわった中でも、このようにとりわけ「素性の良い」空間であったことが、この町家を選ぶ決め手となりました。
京町家に住んでみたいという人は多い一方で、見た目が劣化していたり、改修後のイメージがしづらかったり、いざ購入に踏み切るというのはなかなかハードルが高いかもしれません。
柱の一本から、部材を取り替えられるのが京町家の特長です。傷んでいても手間さえかければ修復できます。表面的な老朽化にとらわれ過ぎず、建物の構造や空間の骨格を見極める。設計者として少しでもその後押しが出来ればと思います。
 
ひと月ほど検討と打合せを重ね、設計がまとまってきました。
3Dモデルでリビングの雰囲気や光の入り方を確かめています。建て主の要望であるシンプルな空間とするため、床、壁、キッチンはすべて一体のモルタルで仕上げています。

ミセノマは仕事場に、ダイドコはキッチンに、座敷は寝室に。
建物とともに、西陣らしい暮らしも受け継ぎたいと思います。 
建て主にも案を気に入ってもらえ、工事の見積調整も順調に進みました。祇園祭の頃、いよいよ工事が始まります。